「相続」が「争族」になってしまう現場を、私は不動産仲介の仕事を通じて何度か見てきました。
「登記をしようとしたら、何十年も前の遺産分割協議が終わっていなかった」
「疎遠な親族と連絡が取れず、売却が進まない」
「誰が何を継ぐかで揉めて、家族の絆が断絶してしまった」
こうしたトラブルは、実は
「たった一枚の正しい遺言書」
があれば防げたものばかりです。
「遺言書なんてお金持ちが書くものでしょ?」
「公正証書遺言は数万円もして高いし、手続きが難しそう……」
そう思っている方にこそ知ってほしいのが、2020年から始まった法務局の
「自筆証書遺言書保管制度」
です。
先日、私自身もこの制度を利用して遺言書を預けてきました。
実体験に基づいたメリットや注意点、具体的な手続きの流れを、不動産のプロとしての視点も交えて詳しく解説します。
1. なぜ「法務局」なのか? 公正証書や自宅保管との決定的な違い
遺言書には大きく分けて
「公正証書遺言」
「自筆証書遺言」
がありますが、今回ご紹介するのは後者の進化版です。
① 圧倒的なコストパフォーマンス(3,900円 vs 約5万円)
公証役場で作る「公正証書遺言」は、法的な確実性が非常に高い一方で、資産額に応じて数万円(私の場合、過去に作成しましたが5万円ほどでした)の費用がかかります。
しかし、法務局の保管制度なら全国一律3,900円。
この差は大きいです。
② 裁判所の「検認」が不要
自宅で保管していた自筆の遺言書は、本人の死後、家庭裁判所で「検認」という手続きを受けなければなりません。
これには1か月程度の時間がかかり、相続人の負担になります。
しかし、法務局に預けた遺言書はこの「検認」が免除されます。
亡くなった後、すぐに手続きに動ける。
これは残された家族にとって最大のメリットです。
③ 紛失・改ざんの心配がゼロ
自宅保管で一番怖いのは、紛失や、自分に不都合な内容を見た親族による破棄・改ざんです。
法務局という国家機関が厳重に保管してくれるため、そのリスクは完全に消滅します。
④ 「死亡時通知制度」という神機能
これが意外と知られていないメリットです。
遺言者が亡くなった際、あらかじめ指定しておいた人(受遺者や執行者など)に、法務局から
「遺言書が預けられていますよ」
と通知が行く仕組みがあります。
特に、離れた所に住み、長い間連絡など取らずに疎遠になっていた人は、亡くなったことも知らされないこともあるでしょう。
また、遺言書を書いていることを、誰にも話していないこともあると思います。
せっかく書いた遺言書が気づかれずに終わる、という悲劇を防げます。
2. 【実録】松山法務局宇和島支局での体験レポート
私は、最寄りの松山法務局宇和島支局で予約を取りました。
ネットから24時間いつでも予約ができるので、非常にスムーズです。
準備:AI(Gemini)と法務局HPをフル活用
遺言書の内容自体は、難しい法律用語を並べる必要はありません。
「誰に、何を、どれだけ相続させるか」
を明確にするだけです。
特に
「すべてを一人の人に相続させる」
といったシンプルな内容であれば、自分一人でも十分に作成可能です。
私は、AI(Geminiなど)に下書きを確認してもらいつつ、法務省のホームページにある
を徹底的に読み込みました。
ページには、余白のミリ単位の指定や、書き方のルールが詳しく掲載されています。
ここを読み飛ばすと当日書き直しになるので、事前学習は必須です。
遺言書の用紙は、こちらからもダウンロードできます。
私も、上の用紙を印刷して、遺言書を書きました。
申請書:ホームページからダウンロード
遺言書本体とは別に、法務局へ提出する
「保管申請書」
が必要ですが、これも心配無用です。
法務局のホームページからダウンロードでき、「パソコンで入力して印刷」するか「印刷して手書き」するか選べます。
公式サイトには非常に分かりやすい「記入例」が用意されているため、それを見本に氏名や住所などの基本情報を埋めていくだけで完成します。
難しい法律知識は一切不要。
誰でも迷わず作成できる、非常に親切な設計だと感じました。
当日の流れ:丁寧なチェックと修正
予約日時に法務局へ。
まずは書類のチェックを受けます。
ここで驚いたのが、職員の方の丁寧さです。
「法的な有効性を保証するものではない」
という建前はありますが、形式面はしっかり見てくれます。
エピソード:漢字の間違いを指摘されました 私の場合、うっかり漢字を間違えていたのですが、職員さんが優しく指摘してくれました。その場で訂正印を押して修正し、事なきを得ました。こうした「第三者の目」が入ることで、形式不備で無効になるリスクを大幅に減らせます。
スキャンと待ち時間
一通りチェックが終わると、遺言書が画像データとしてスキャンされます。
これによって、原本だけでなくデータとしても法務局で管理されるようになります。
この作業に1時間弱かかるとのことで、一旦外出するか、連絡を待つことになります。
私の時は電話で「終わりました」と連絡をいただけました。
仕上げ:3,900円の収入印紙
連絡を受けて法務局に戻り、宇和島支局の1階で3,900円分の収入印紙を購入します。
それを申請書に貼付して提出すれば、すべての手続きが完了。
手元には「保管証」が残ります。
保管証は、コピーして必要な人に渡すなどして、しっかり保管しておきましょう。
3. 不動産仲介のプロが教える「遺言書がないことの恐怖」
なぜ私がここまで遺言書を勧めるのか。
それは、現場で「動かなくなった不動産」を見てきたからです。
- 遺産分割協議の長期化: 遺言書がない場合、相続人全員で「誰が何を貰うか」を話し合い、全員の署名捺印(遺産分割協議書)が必要です。一人でも反対すれば、家は売れません。
- 連絡不能な相続人の存在: 普段付き合いのない親戚が相続人の中に含まれていると、連絡を取るだけで数ヶ月、あるいは裁判所を通した手続きが必要になり、多大な労力と費用がかかります。
- 相続登記の義務化: 2024年4月から相続登記が義務化されました。放置すると罰則の対象になりますが、揉めていると登記すらできません。
遺言書は「自分が死んだ後の争いを、生前の自分の意思で封じ込める唯一の手段」です。
4. これから作成する方へのアドバイス(注意点)
実際にやってみて分かった、気をつけるべきポイントをまとめます。
① 「形式」には1ミリの妥協も許されない
法務局の保管制度を利用する場合、用紙のサイズ(A4)、上下左右の余白(上5mm、下10mm、左20mm、右5mm以上など)が厳格に決まっています。
これを破ると受理されません。
法務局のテンプレートを使うことで、不備を防げる可能性が高くなります。
② 全文「自筆」が大原則
財産目録(通帳のコピーや登記簿謄本など)はパソコン作成やコピーでもOKになりましたが、遺言の本文は必ず自分の手で書かなければなりません。
③ 付言事項(ふげんじこう)を活用しよう
「なぜ、この人にすべてを相続させるのか」という理由や、家族への感謝の気持ちを書き添えることができます。
法的拘束力はありませんが、残された家族の心情を和らげ、納得感を高めるために非常に有効です。
④ 予備的遺言を検討する
「もし相続させる予定の人が自分より先に亡くなったらどうするか」
まで書いておくと、さらに万全です(例:Aが死亡していた場合はBに相続させる)。
5. まとめ:少しの手間で、大切な人の時間を守る
3,900円という費用と、半日程度の時間。
それだけで、自分が亡くなった後の家族の負担を劇的に減らすことができるのです。
「遺言書を書く」
というのは、死を準備することではありません。
今を安心して生き、残された人の幸せを願う最高のツールだと、私は思います。
不動産トラブルに巻き込まれる人を一人でも減らしたい。
そのためにも、ぜひお近くの法務局のホームページを覗いてみてください。
そして、
「愛南町の不動産を生きている間に何とかしたい」
と思っているのであれば、有限会社千寿にご相談ください。
不動産をそのまま相続させると、物理的に分割することは難しいです。
共有名義にしてしまうと、トラブルのリスクが高まります。
それなら、売却して現金にすることで、分割もしやすく、生きている間に活用することもできます。
まずは、有限会社千寿に相談してみてください。


